腎臓の役割と言えば、まず「尿をつくること」が注目されますが、その他にも「体のミネラルバランスの調整」や「カルシウムの吸収」「骨代謝の維持」など、さまざまな役割を果たしながら人体をコントロールしています。そのため、腎臓機能が低下すると全身に悪影響が及び、体内環境の調節ができなくなって透治療法が必要になるのです。
私は非常勤整形外科医として当院の診療に20年以上携わってきた中で、透析患者様の骨の健康を守る大切さを痛感してきました。
近年では、慢性腎臓病(CKD)に伴う骨・ミネラル代謝異常を「CKD-MBD(mineral and bone disorder )」という全身性疾患として捉え、日々研究が進められていて、私も非常に関心を寄せています。CKD-MBDは頻度の高い透析合併症ですが、その病態は非常に複雑で研究しがいのある分野です。CKD-MBDは透析導入前の保存期から発症し、あらゆる骨の病気や動脈硬化の原因となって、生命予後にも大きく影響を及ぼすため、早期からの適切な治療が大切です。
「CKD-MBD」と「骨粗鬆症」は、相互に密接な関連があります。骨粗鬆症を専門的に診ている医師の立場から言うと、透析患者様の骨粗鬆症治療は大変難しいです。
多くの透析患者様は骨密度・骨質などが低下し、骨の状態が一人ひとり異なります。また、血液中のカルシウム値も人それぞれですから、まずは骨密度検査・血液検査などを通して骨の健康を評価し、総合的な観点を踏まえて治療に取り組む必要があるのです。
骨粗鬆症を患う透析患者様は、骨折予防対策として食事療法・薬物療法に取り組んでいる方が多くいます。さらにそこへ運動療法を加えると、筋力向上によって骨折リスクをより軽減させることができるでしょう。そのためには、主治医が正しい運動方法を提案し、習慣づけるお手伝いをする必要がありそうです。
今後、当クリニックで計画している取り組みの一つは、透析患者様のサルコペニア・ロコモティブシンドローム・フレイル対策として、腎臓リハビリテーションを充実させることです。
サルコペニアとは、加齢による筋肉量の減少によって筋力や身体機能が低下した状態。ロコモティブシンドロームとは、運動器の衰えから移動機能動作が低下した状態。フレイルとは、健康な状態と要介護となる状態の中間の段階を指します。
整形外科医として、運動療法を中心とするリハビリには積極的に携わってきましたから、当院でもリハビリテーション科と連携し、透析患者様への腎臓リハビリテーションを充実させていく方針です。
2022年度の診療報酬改定では、新たに「透析時運動指導等加算」が設定され、透析患者様も積極的に運動し、心身機能の維持・改善に取り組む時代になりました。当クリニックでも、透析中の運動療法導入を視野に入れ、透析患者様のQOL(生活の質)の更なる向上を目指していきたいと考えています。
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○医学博士 ○日本整形外科学会 整形外科専門医 ○日本骨粗鬆学会認定医 ○日本リウマチ学会 リウマチ専門医 ○日本整形外科学会認定リウマチ医 ○日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医 ○日本リウマチ財団登録医 ○身体障害者福祉法指定医師(肢体) ○日本医師会認定産業医 ○介護支援専門員
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昭和59年(1984年)防衛医科大学卒業。
令和4年(2022年)4月より附属クリニックの常勤医として着任。
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整形外科医として、県内外の医療機関で多くの患者様の治療・手術・リハビリに携わる。特に、「手外科」「リウマチ」「骨粗鬆症」の診療が強みで、健康長寿社会で求められる「サルコペニア」「ロコモティブシンドローム」「フレイル」の予防にも力を注ぐ。当院の非常勤医として20年以上診療にあたる中で透析患者様の「骨の健康」と向き合い、透析合併症の一つである「慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)」の臨床研究に高い関心を寄せている。